慢性腰痛症例(CLBP)の病態は未だはっきりしていません。
その中で、
脊椎の運動学の変化が、
疼痛に関与しているのではないかと言われています。
そのため、
正常(normal)群とCLBP群の脊椎の運動学の違いを知ることは、
疼痛を改善させるための理学療法戦略における有益な情報です。
CLBPの脊椎の運動学はいくつか報告がありますが、
複数のセグメントに分けた報告が少なく、
複数のセグメントに分けた運動学の情報が必要です。
今回は、
CLBPとnormal群の歩行中の運動学を、
上部胸椎、下部胸椎、上部腰椎、下位腰椎の4つに分けて調査したお話です。
対象は11例のCLBP群と、11例のnormal群です。
上部胸椎、下部胸椎、上部腰椎、下位腰椎、4つセグメントは、
上部胸椎:Th1〜Th6
下部胸椎:Th6〜L1
上部腰椎:L1〜L3
下部腰椎:L3〜L5
以上のように分けました。
赤外線反射マーカーを使用し、
10m歩行時の各セグメントの動きを測定しました。
各セグメント間の角度を、
上部胸椎と下部胸椎の角度を上部胸郭関節角度(UTS )、
下部胸椎と上部腰椎の角度を下部胸郭関節角度(LTS)、
上部腰椎と下部腰椎の角度を上部腰椎関節角度(ULS)、
下部胸椎と骨盤部分の角度を下部腰椎関節角度(LLS)、
としました。
結果です。
CLBP群とnormal群において歩行速度に有意差はありませんでした。
下部胸椎と骨盤部分の角度(下部腰椎関節角度(LLS))の
最大と最小の差(つまり歩行時のLLSの動いた量)をみると、
冠状面においてCLBP群はnormal群より有意に小さい値となりました (5.57°vs 6.81°)。
また、
下部胸椎と上部腰椎の角度(下部胸郭関節角度(LTS))の最大角度を見ると、
横断面においてCLBP群は有意に小さな値となりました(0.46°vs 1.63°)
つまり、
CLBPの歩行時の体幹の動きは、
下部腰椎関節角度(LLS)の量が小さく、
下部胸郭関節角度(LTS)が小さいという結果となりました。
CLBPの体幹の運動学についての過去の報告では、
横断面において右の立脚初期に体幹が左に回旋していたという報告や
うつ伏せの状態からの体幹伸展や椅子からの立ち座りにおいて、
矢状面における下部腰椎の伸展が少ないという報告があります。
今回の結果や過去の報告から分かるように
CLBPの体幹の運動学は非対称的であり、
下部腰椎の動きが少ない傾向にあると言えるでしょう。
また、
今回の結果から
下部腰椎だけでなく、
下部胸椎にも目を向けて理学療法アプローチを検討する必要がありそうです。
また、
CLBP患者の歩行中および他の機能的活動中に体幹筋活動が増加すると言われていることから、
過剰な筋活動によって下部腰椎の動きが制限されている可能性もあります。
ただ、
CLBPの動きのメカニズムの判明はまだはっきりしないことや、
過剰な筋活動・脊椎の非対称的な運動学と疼痛が関連しないことを踏まえると、
過剰な筋活動以外の問題が考えられます。
著者は、
CLBPの問題点として運動恐怖症、中枢神経系の変化、構造変化などの複数の要因による可能性があると述べています。
運動学はもちろんですが、運動学以外にも目をむけて理学療法アプローチを検討していく必要がありそうです。
本日は以上です。