肩関節症例の可動域・上肢機能改善のために、
正常肩の肩甲骨と上腕骨の相互作用を理解することはもちろんのこと、
各肩関節疾患それぞれの肩甲骨と上腕骨の相互作用を理解することも、
リハビリをすすめていく上で必要不可欠です。
特に肩甲骨の動きは、
肩甲上腕関節の動きを補うことに対して重要な役割を果たすため、
各肩関節疾患ごとに
肩甲骨がどのような動きをしているかを知っておく必要があります。
そこで今回は、
肩OA、FS、腱板損傷肩(RCT)の
結髪と洗体動作における上腕骨と肩甲骨の運動学の話です。
対象は、
GHOA11例(平均屈曲角度113.4度)
FS20例(平均屈曲角度70.5度)、
RCT17例(平均屈曲角度112.3度)を対象として、
fast-track electromagnetic deviceを用い
結髪動作および背中の洗体動作の、
胸郭に対する上腕骨挙上角度(30,45,60度)に対する、
肩甲骨の回旋(protraction/retraction、upward/downward))、前後傾の角度を測定しました。
比較は、
各疾患の各動作の患側と健側を比較しました
それでは結果です。
結髪動作時の胸郭と上腕骨との角度は
GHOA群は101.7度、FS群は86.9度、RCT群は113.4度でした。
背中の洗体動作の胸郭と上腕骨との角度は
GHOA群46.4度、FS群は34.2度、RCT群は45.4度でした。
GHOA群の結髪動作時の肩甲骨の外旋は、患側と健側を比べると有意に異なっていました。
どれくらい健側と患側で差があったかと言うと、
上肢挙上角度30度において肩甲骨の外旋が5.8度、
上肢挙上角度45度でおいて肩甲骨の外旋が6.69度、
上肢挙上角度60度において肩甲骨の外旋が7.65度の差がありました。
つまり、
GHOAの場合、
結髪動作では肩甲骨の外旋を増やすことで肩甲上腕関節の動きを代償していたことになります。
背中の洗体においては有意差を認めませんでした。
FS群の結髪動作では上肢挙上30度において肩甲骨の前後傾に有意差を認めました。
どれくらい健側と患側で差があったかと言うと、
その差は2.07度でした。
結髪動作における上肢挙上30度以外の角度、
洗体動作における肩甲骨の動きに有意差は認めませんでした。
つまり、
FSの場合
結髪動作時の上肢挙上30度において
肩甲骨が過剰に後傾し、代償を生じていたとことになります。
RCT群の結髪動作時の肩甲骨の外旋は、患側と健側を比べると有意に異なっていました。
どれくらい健側と患側で差があったかと言うと、
上肢挙上角度30度において肩甲骨の外旋が5.5度、
上肢挙上角度45度において肩甲骨の外旋が6.6度、
上肢挙上角度60度において肩甲骨の外旋が6.71度の差がありました。
つまり、
RCTの場合、
結髪動作では肩甲骨の外旋を増やすことで肩甲上腕関節の動きを代償していたことになります。
背中の洗体では
上肢挙上角度30度においてて外旋に有意差を認めました。
つまり、
結髪動作同様、
背中の洗体動作においても肩甲骨の外旋を増やすことで肩甲骨
いかがでしたか、
各疾患によって肩甲骨の代償の程度が異なることがわかりました。
肩関節疾患のROMを改善させる場合、
肩甲上腕関節のROMを改善させるのか、
肩甲骨の代償を用いて肩甲上腕関節のROMを補うのか、
大きく分けて二通りのリハビリ戦略が考えられます。
「代償動作」と聞くとなんとなく「悪」なイメージがありますが、
そんなことはありません。
治らないものは治りませんので、
効率の良い代償動作を患者さんに伝え、学習していただくことも我々理学療法士の仕事です。
今回の結果を踏まえ、
肩関節疾患のリハビリをする際に、
肩甲骨の動きに再度注目してみてはいかがでしょう。
本日は以上です。